Center line 〜センターライン〜
元読売巨人軍・井端弘和氏が、野球にまつわる様々なテーマを、独自の目線で深く語るYouTubeチャンネル『イバTV』を配信中! コラム 〜センターライン〜 では『イバTV』の未公開部分を深堀りし、テーマに沿ってお届けします。
[連載 第2回]
盟友・井端弘和の語る阿部慎之助
巨人、そしてJAPANの土台を担った稀代の捕手(後編)
Posted 2019.11.08
©YOMIURI GIANTS

失敗や逆境と徹底して向き合い、乗り越える強さ

捕手史上3人目の400本塁打。主将として2度のリーグ3連覇に導いた功績はジャイアンツの歴史に燦然と輝いている。だが、阿部慎之助の進化の歴史は、失敗や苦悩の歴史でもある。
「一言で言うなら『大胆かつ繊細』」と井端は阿部のイメージを語る。
「大胆な配球にしろ、あれだけヤマを張って打てる打撃にしろ、失敗からいろいろ学ぶ中から最終的に阿部慎之助というキャッチャーが出来上がっていったのだと思います」

例えば、低反発球が問題となった2011年、阿部の打率は2割2分台まで落ち込んだが、そのとき阿部はあえて長打を捨て、狙い球以外を見極めるバッティングを確立した。翌2012年には多くのスラッガーたちが不振にあえぐ中、捕手史上初の打率.340、107打点で二冠を達成。この年のリーグ平均打率は.244。その実績がいかに傑出したものだったか分かるだろう。

また、決して失敗を忘れないよう、自分が落球した瞬間の写真をロッカーに貼っていたこともある。ミスを忘れて気持ちを入れ変えるのではなく、悔しさと徹底的に向き合い反省し、高みをめざす。だからこそ、ときにチームメイトにも厳しい。

よくチームの中心選手を大黒柱と形容するが、阿部慎之助の存在はそれに留まらない。もし1塁手に移って打撃に専念したなら500本の本塁打を打てたかもしれないが、阿部は捕手にこだわり、主将としてチームを背負うことを選んだ。「捕手で主将で4番」という唯一無二の重責と戦い、失敗と雪辱を積み重ねながら、チームをまとめ上げた特別な存在が阿部慎之助である。

重責から築き上げた、阿部慎之助の強固な「土台」

野球の話ではないが、昨年亡くなった女優・樹木希林の著書に印象深い一節がある。
「少々大黒柱がひしゃげても、土台がしっかりしていれば家は立っていられるものです」
戦争で住まいも店も失った希林の母は、再び一から仕立屋や飲食業を営み、趣味の琵琶に没頭する夫や子どもを支えていく。そこへ戦前生き別れた子どもたちも訪れ、店の働き手として共に生活するようになる。そんな母の築いた家族の絆を大女優は「土台」と表現したが、阿部の築き上げてきたものもまた、それに似ている。

「今シーズンの巨人を見ていると、阿部がスタメンに入ると4番の岡本が打つんですよね。後ろに阿部が控えているだけで、チーム全体にいい影響を与えている」 そう井端が語るように、巨人というチームは阿部慎之助が名を連ねるだけで躍動することが多い。いざというとき一丸となって勝利をつかみ取るその強さは強固な「土台」があってこそのものだろう。

「真のリーダーというのは他球団の選手もファンも『あのチームはあいつだ』と思えるところにいる存在。実績もそうだし、行動も人柄も言葉もそうですが、資質があっても引き受けない人もいる。彼は大変なことを引き受けて、自分も選手もファンも『巨人は阿部慎之助のチームだ』と一致する存在になっていった。それが阿部の凄さだと思います」

阿部が引退を発表してから迎えた阪神とのCSファイナル。23歳の主砲・岡本和真は4試合で3HR7打点の大活躍を演じ、CS最年少MVPに輝いた。そして阿倍の築き上げた土台は、4年間の苦悩を経てチームをリーグ優勝へ導いた現キャプテン・坂本勇人へと受け継がれていく。

(了)/文・伊勢洋平