Center line 〜センターライン〜
元読売巨人軍・井端弘和氏が、野球にまつわる様々なテーマを、独自の目線で深く語るYouTubeチャンネル『イバTV』を配信中! コラム 〜センターライン〜 では『イバTV』の未公開部分を深堀りし、テーマに沿ってお届けします。
[連載 第3回]
守りの名手・井端弘和の語るプロフェッショナル論
「自分のできることをする」が勝利への命題(前編)
Posted 2019.11.29

国際試合で重要な「隙を見せない守り」

「長いシーズン終わった後の厳しい戦い、疲れは皆あったと思うけど、結果、勝てたし、このメンバーで戦えて本当に良かったと思いますね」
プレミア12の優勝から一夜明け、内野守備・走塁コーチの井端弘和は、安堵の表情で侍JAPANの激闘を振り返った。

国際大会での世界一は2009年のWBC以来。全8試合のうち先制されること4試合、スーパーラウンド以降の5試合は全て2点差内の接戦だった。
「フォアボールやエラーが失点につながり、流れが変わるケースは多々あるわけで、点はなかなか取れなくとも、点を与えないという『隙を見せない守り』は、国際試合の一発勝負では非常に大事だなと感じます」

今回のプレミア12で井端がコーチとして重要視していたのは、相手打者の細かい情報だという。
「打球方向云々という指示はほとんど出さなかったですね。そこはベンチよりも選手の感覚の方が正しいと思っているので、選手の感じた通りに動いてくれればいい。むしろ相手打者に関して、このバッターは足が速いとか、こういう場面では走ったことがある、といったデータは逐一教えていました。例えばセーフティーにしても、過去に一度でもやったことのある打者というのは、ふだん滅多にやらなくても、国際試合のような負けられない試合になると必ずやってくる。JAPANで言えば、丸がそうでしょう」

確かにシーズン中はセーフティーバントのイメージのない丸だが、CSファイナルや今回のプレミア12では、意表をつくセーフティーで得点につなげている。プロの命題は「当たり前のようだが『勝つこと』であり、勝つために何をするかだ」と井端は語る。その意識が高い選手ほど、つねに打席では自分の「できること」を模索している。それを頭に入れて守りに備える「隙のなさ」は、現役時代、数々の好機をものにしてきた勝負師・井端だからこそ注視していたことだった。

ありがたかった浅村と山田の心意気

もっとも、侍JAPANの内野に不安がなかったわけではない。代表メンバーの発表時にも各紙から疑問が上がったように、内野手の多くが本来二遊間で、一塁手の本職がいなかったことは、コーチとしても悩ましいことだった。
「やはり浅村選手と山田選手、本来セカンドの2人がファーストをやってくれるかどうかは心配でした。山田選手なんかほとんどやったことのないポジションですから。それでも引き受けてくれたのは、本当にありがたかった」

とはいえ、期待通りの好守備で一塁を守っていた浅村は、スーパーラウンド2戦目で右スネに打球が直撃するアクシデント。以降は山田がファーストミットを構えることになった。
「今回はキャンプも張って、内外野の連携やピッチャー絡みの連携は十分。山田選手もファーストメインに練習しました。ただ、ファーストは意外と周りが思っているより特殊なポジションで、慣れるのに時間がかかるんです。僕も経験があるのですが、細かい動きが多く、ボールにもたくさん触れる。打球の質も違うし、野手が目一杯投げてくる送球を捕るのがこんなに難しいものかと思ったものです」

また、ファーストとサードは打者の当たりが見えにくいという点で、セカンドやショートとは動きが異なる。
「ショートやセカンドは、相手打者が打つときのバットの軌道とボールの接点を見ることで、二遊間だ、三遊間だと動きやすいのですが、サードとファーストはそれが見えない。芯付近で打たれると、グラブを出す瞬間にドンッと打球が来ている感じです。だから実はサードやファーストは、早く動かないことが大事。動くと当たっちゃいますから、ワンテンポ我慢してスタートするくらいが丁度いいと思うんです。とくにファーストは、ランナー1塁だと、牽制から守りについた途端にドンと打球が来ることもあるし、一二塁間抜かれたら一気に大ピンチですから、やはり重要なポジションなんですよ」

だが、そこは元来、身体能力も高く守備範囲の広いトップ選手。短期間の練習でしっかりアジャストした山田の守備に、井端の心配は杞憂に終わった。
「ショートバウンドもよく捕ってくれましたし、よく守ってくれた。終わってみればいい経験になったのではないかと思います」
東京五輪では選手登録が24人に狭まるため、野手のユーティリティー性はなおさら重要になる。本職と違うポジションを守る姿は、一流のプロがJAPANにかける熱い想いでもあり、世界大会ならではの見どころでもあるのだ。

(つづく)/文・伊勢洋平