Center line 〜センターライン〜
元読売巨人軍・井端弘和氏が、野球にまつわる様々なテーマを、独自の目線で深く語るYouTubeチャンネル『イバTV』を配信中! コラム 〜センターライン〜 では『イバTV』の未公開部分を深堀りし、テーマに沿ってお届けします。
[連載 第4回]
守りの名手・井端弘和の語るプロフェッショナル論
「自分のできることをする」が勝利への命題(後編)
Posted 2019.12.13

エラーしないことは、できないことではない

東京五輪の出場国6枠中、すでに出場を決めているのは日本、イスラエルに加え、今回プレミア12の準優勝国・韓国と3位メキシコの計4カ国。プレミア12で4位に沈んだ米国は来年3月〜4月のアメリカ大陸予選や世界最終予選に回ることとなるが、米国は失策6で、スーパーラウンドに進んだ4チーム中、最もチーム守備率が低く、目測を誤るような決定的なエラーもあった。

「プロフェッショナルとは、単純に言えば、勝つこと。そのためにエラーをしないこと」
「プロとは何か?」という問いに、守りの名手・井端はそう答える。
「なぜなら、毎打席打つことは難しいですよね。間違いなくアウトの方が多いわけですから。でもエラーを限りなくゼロに近づけることはできるし、できないことではない。言い換えれば『できること』をすることなんですよ」

チームの方向性もまた、エラーを少なくした上で初めて成り立つものだ。
「実際、コーチとして指導するときは、守備は守備、打撃は打撃と分けて練習するわけですが、守りに不安があると、打つときも不安になるものです。言い方は悪いかもしれませんが、打球をさばくことに自信が持てれば、アウト1つしっかり取っていけばいいだけなんでね、守りながらも相手投手が『次の打席はどう攻めて来るだろうか』『こう来たらこう打とう』というように打撃のことを考えられる。僕自身はそうでした」

逆に守りに不安を抱えていたら、状況を把握したり、相手ランナーの動きを冷静に見る余裕もなくなってしまう。
「打球を捕る、送球するという動きには絶対的な自信を持たないと、相手の動きまでは見えてこない。自信が持てれば打てなかった打撃も打てるようになると思いますよ。まずは『守備=できること』なんです」

活躍しているプロは、球界の生き方を知っている

「できることをする」という考え方は、チームスポーツにおいて組織をビルドアップする上でも非常に重要であり、勝利を呼び込む絶対条件だ。先のラグビーW杯でも、イングランドが絶対王者オールブラックスを破った一戦での立役者は決してトライゲッターではなく、ビッグタックルの連発で相手を封じ込めた6番、7番の若手選手。最優秀選手に選ばれた23歳のサム・アンダーヒルはラグビー不毛の地アメリカの出身だが、まさに自分のできることに徹し、大舞台で一躍名を挙げた。

「とくに若い選手は長所・短所があるが、まずは自分の良さを伸ばすことを大切にしてほしい」と、井端は指摘する。
「短所を埋めようとしてこぢんまりしちゃう選手は意外と多いんですよ。例えば、引っ張るバッティングが得意だった選手が、反対方向を急に練習したら、反対方向はまあまあ打てるようになったけど以前のように引っ張れなくなった。打率もそんなに変わらず、それなら長打力があった方が魅力的だったよな、というようなケース。中にはホームランバッターでもないのにウェイト増やして失敗する選手だっています」

井端自身もまた、自分のスタイルを追求し、プロ野球界での価値を高めてきた一人だ。
「自分の場合は、ホームランは5本でも打率3割打てる方が監督やチームにとってありがたいわけで、本塁打は付属的なもの。なんなら本塁打はゼロだっていいというバッティングを追求して、それができればたまにはホームラン打ってやろうと。相手も『ない』と思っているなら、たまに狙えばこっちが有利になるんじゃないか、くらいに考えていましたね」

「逆にスワローズの村上宗隆(2019年度は36本塁打、打率.231)のように40本50本と期待できる選手なら、打率にこだわる必要はなく、率はホームランを増やしてからでいい。40本打つには低めのボールを振らないことだけ改善すればいいんですよ。投手もゾーンに投げざるを得なくなるからホームランは増える。三振は減る。フォアボールも増えて、結果、率も上がる。たったひとつ考え方を変えるだけで、すぐ40本2割5分は打てるようになりますよ」

戦国の世で織田信長のご用聞きに徹し、農民出身でありながら天下を統一したのは豊臣秀吉だ。その秀吉がライバル明智光秀や柴田勝家の出世に遅れをとって焦燥感に駆られたとき、秀吉を影で支えた弟の秀長はこう助言したという。
「他人でもできることは他人にやらせておけばいい。侍も商売と同じで、自分にしかできないことをいかに高く売るかです」

「できることをする」ことは、チームが勝つためにはもちろん、熾烈な競争社会でどう頭角を表すか、プロとしての生き方にも関わっている。球界のみならず、ビジネスの世界にも通ずる考え方ではないだろうか。自分の過去と未来をすべて受け入れて、今自分にできること、今自分にしかできないことをするのが“プロフェッショナル”だ。

(了)/文・伊勢洋平