Center line 〜センターライン〜
元読売巨人軍・井端弘和氏が、野球にまつわる様々なテーマを、独自の目線で深く語るYouTubeチャンネル『イバTV』を配信中! コラム 〜センターライン〜 では『イバTV』の未公開部分を深堀りし、テーマに沿ってお届けします。
[連載 第11回]
超一流とは 〜巨人軍不動の4番打者〜(前編)
Posted 2020.04.17
©NTV

何人にも侵すことのできない、巨人軍の聖域

「巨人軍には、独特の何人にも侵すことのできない聖域がある」とは、読売ジャイアンツを率いる原辰徳監督が、現役引退に際して語ったあまりに有名な一節だ。

プロ2年目の1982年6月、巨人軍第48代4番打者としてスタメンに名を連ねた原辰徳は、以降、1066もの試合で4番を務めた生え抜きのスラッガーだ。王・長嶋を継承するスターとして国民の期待を背負い、ときにマスコミに叩かれ、故障にも苦しんだが、その重責と一人で闘いひたむきに打席に立つ姿、そして土壇場で放つ起死回生の大アーチは、80年代のファンの記憶に鮮明に刻まれている。

記録上、巨人歴代の4番打者は現在89代を数えるが、その座を不動のものとして活躍した超一流のバッターはそう多くない。日本プロ野球の黎明期に遡れば、“打撃の神様”と称され、第一次巨人黄金期の主軸を担った川上哲治。歴代最多1658試合で4番に立ち、今なお史上最速記録である2000本安打や史上初の逆転サヨナラ満塁本塁打を放った川上は、監督としてもプロ野球史上に燦然と輝くV9を達成した。

そのV9の立役者となった4番打者が、魅せる野球にこだわり、天覧試合での2本塁打や日本シリーズ史上最多4度のMVPという無類の勝負強さを誇った“ミスタープロ野球”長嶋茂雄(4番通算1460試合)であり、一本足打法で生涯本塁打868本の大偉業を成し遂げた“世界のホームラン王”王貞治(同1231試合)。巨人の4番を「聖域」たらしめたのは、この2人のレジェンドに他ならない。

原辰徳以降、その聖域は、中日から移籍して長嶋巨人を優勝に導いた落合博満、長嶋監督と原監督のもと470試合で4番をつとめ、日本球界のみならずヤンキースの主軸としてワールドシリーズMVPの栄冠に輝いた松井秀喜、2000年代には捕手として4番の重責を背負った阿部慎之助へと受け継がれてきた。だが、一方で500試合以上巨人の4番を担った打者は、2008年から2年連続MVPに輝いた第74代のアレックス・ラミレス(510試合)以降、登場しておらず、巨人は10年来、4番の固定に苦心してきた。

黄金時代の狼煙を上げる、不動の4番・岡本和真

そうした中、現れたのが巨人生え抜きの4番・サード、岡本和真だ。奈良県五條市出身。1996年、3人兄弟の末っ子に生まれ、兄の影響で野球を始めた岡本は、リトルシニア時代には日本選抜の4番として出場した全米選手権で優勝。全国の高校からスカウトが訪れる中、憧れの智辯学園へ進学し、高校生離れした打撃センスで甲子園を沸かせた。

2015年のプロ入り後、3年間はおもに2軍で実績を積み、2018年の春キャンプで軸足を我慢しヘッドを立てて打ちにいくフォームを会得するとバッティングが開眼。開幕直後から猛打を爆発させて4番の座につき、シーズン打率.309、33本塁打、100打点を記録した。プロ4年目での30号到達は、王貞治・松井秀喜・坂本勇人に続く4人目、22歳での3割30本100打点はプロ野球史上最年少だった。

2016年から巨人の内野守備走塁コーチを務め、岡本の成長を見てきた井端弘和は、そのスラッガーとしての魅力をこう語る。
「岡本の一番の良さは体が強いことでしょう。どんなにいいものを持っていても怪我をしては結果を残せない。あの若さで怪我をせず、2018年〜2019年と2シーズン1軍の試合に出続けて2年連続30本ですから。それと、やはり性格ですよね。巨人の4番というプレッシャーは計り知れないものがあるだろうけど、全く動じているように見えない。4番を受け入れて打席に立てている」

昨シーズンは本人曰く「一昨年が好調だった分、余計なことを考えすぎて」打てない時期も続いたが、スタンスを狭めアウトコースに対応することで夏には復調。終わってみれば31本塁打、4番での出場も227試合を数え、座右の銘とする「克己心」をまさに体現してみせた。そして今オフのテーマとして挙げたのは基本の重要性。昨シーズンのように考えすぎず「基本を固めていればなんとかなるだろう」。そんな心構えで調整を図った岡本は、オープン戦でも楽天・則本から会心のアーチを放つなど、一段と成長を遂げている。

「悪いなりにも31本打ったというのが、彼の成長であり凄いところ。しかも、若いうちはいろいろとやりたがるものですが、24歳で基本が大事だと気づいて一生懸命やるという辺りね。今シーズンの岡本は、相当、他球団にとって怖い存在になると思いますよ」
そう井端は続ける。
「4番バッターというのは、監督がオーダーを組むとき、真っ先にそこに名前を書く存在。岡本はすでにそういう存在ですが、ファンは巨人の4番=球界の4番であってほしいと思っているわけですから、40本・120打点は打ってほしいですよね。オールスターでも7番や5番ではなく、長嶋さんや原さんのように4番サード。そうなってほしいと期待しています」

(つづく)/文・伊勢洋平