Center line 〜センターライン〜
元読売巨人軍・井端弘和氏が、野球にまつわる様々なテーマを、独自の目線で深く語るYouTubeチャンネル『イバTV』を配信中! コラム 〜センターライン〜 では『イバTV』の未公開部分を深堀りし、テーマに沿ってお届けします。
[連載 第22回]
84番目の指名(後編)
Posted 2020.11.13

ドラフト下位選手の台頭が、強いチームをつくる

2020年は10月時点で822名の支配下選手がプロ野球界に在籍。プロの世界では、そのうち約1割が毎年入れ替わる。最も戦力外通告を受ける人数が多いのは4年目だ。そのサバイバルは育成選手からの突き上げも加わってますます熾烈になっており、中にはドラフト上位で芽の出ないまま球界を去る選手もいるが、佐野恵太のように球界の底辺から出発し、数年後にブレイクする選手も少なくない。

佐野の伯父でもあり、90年代「メジャーに最も近い男」と呼ばれた佐々木誠も水島工業時代は投手だったが、野手として南海ホークスにドラフト6位で入団した選手だった。来季からDeNAの1軍監督に就任する「ハマの番長」こと三浦大輔も高田商業時代は甲子園出場こそ叶わなかったが、高松延次スカウトに見出されドラフト6位で入団。以降、25年に渡ってマウンドに立ち続けた。昨年引退した福浦和也(現千葉ロッテ2軍ヘッドコーチ)は、1994年ドラフト7位の最終指名。投手として入団後、肩を故障して野手に転向するなど3年間をファームで過ごしたが、4年目で1軍昇格の機会を得てレギュラーに。入団時、支配下選手70人の最後という意味で70の背番号を背負った男は、のちに通算2000本安打の偉業を達成したのだった。

各球団が育成に力を入れるようになった昨今は、ドラフト下位選手の台頭がペナントレースの鍵を握るといっても過言ではない。2位に8.5差をつけて圧倒的な優勝を果たしたジャイアンツを見ても、育成5位指名の松原聖弥が2番右翼のスタメンを奪取してチームに機動力をもたらし、投手では2018年ドラフト6位の戸郷翔征が高卒2年目で先発ローテ入り。鉄壁のブルペン陣を担った大江竜聖も2016年ドラフト6位。貴重なユーティリティープレーヤー・増田大輝に至っては、全国区での実績がないまま近大を中退し、鳶職や地元・四国の独立リーグを経て2015年の育成ドラフトで入団するという経歴を持つ。

「数年経ってみなければ分からない」と言われるドラフトだが、最下位スワローズでは2014年のドラフトで入団した6人全員が6年内に姿を消した。岡本和真(2014年1位)や吉川尚輝(2016年1位)ら、ドラフト上位の選手を着実に開花させると同時に下位指名の選手を積極的に起用し、層の厚さを形成した原ジャイアンツの優勝は、育成がいかに重要であるかを示した出来事だった。

名手・井端もドラフト5位から球界を代表する遊撃手に

プロに入ればドラフト順位は関係ないとも言われるが、実際、ドラフト上位の選手と下位選手の境遇に、差はあるのだろうか。1998年、自身もドラフト5位で中日ドラゴンズに入団した井端弘和はこう語る。
「下位選手に比べたら上位選手は恵まれてますよ。球団もドラフト1位2位の選手がどんなものか見てみたいわけだから、扱いも出場機会も違う」

堀越高校時代、夏の甲子園に出場し、亜細亜大学では東都大学リーグで3季連続ベストナインに選出された井端だったが、大学4年の夏には膝の故障による手術を行った。多くの球団が指名を見送ったが、ドラゴンズは「守れる内野手を取っておきたい」といった星野仙一監督の意向もあり、当時の担当スカウト・水谷啓昭氏が井端をマーク。ドラフト5位で指名した。とはいえ、当時、ドラゴンズの1軍のショートには久慈照嘉(現阪神タイガース内野守備走塁コーチ)や李鍾範がおり、2軍には鳥越裕介(現千葉ロッテヘッド兼内野守備コーチ)がいる。2年目には、近鉄入りを拒否して日本生命でプレーしていた福留孝介が逆指名で入団。井端は厳しいポジション争いにさらされながら1〜2年目を過ごしていた。

「ただでさえ大卒での入団は高卒より遅れているわけで、そこから2年となると、もう次にクビになるのは自分だなと。そういう思いで3年目に臨みました。自分の場合、ちょうど球場がナゴヤドームになってチームの戦術スタイルが変わったこともありますけど、開幕一軍に残ることができて。最初は消化試合の中でエンドランや盗塁を試されたり、ディンゴの守備固めで外野を守ったり、内野・外野はファースト以外全部守りましたね」

数少ない機会を1つひとつ懸命にモノにした井端は、その年92試合に出場し、規定打席には満たないものの打率.306をマーク。当時、守備の安定感を欠いていた福留がサードにコンバートされ、好守を買われた井端は2番・ショートに固定された。
「この年からですよ、なんとかプロでやっていけるかなと思ったのは」
翌年、140試合に出場した井端は、後に7度のゴールデングラブ賞、5度のベストナインに輝く球界きっての名手としてファンを沸かせることとなる。

現在、解説者や侍JAPANのコーチを務める井端が、スカウト目線でプロ志望の選手を見た場合、重要視するのは「バランスよりも突出した長所」だという。
「もちろんドラフトはチーム事情が一番大事ですが、選手個々で言えば、どれも平均的にまとまっている選手より、とにかく足が速いとか、打球を飛ばせるとか、他よりも秀でた素材を持つ選手は魅力がありますよね。足りないところはプロに入ってから補っていけばいいわけですから」

勝負強さを武器にDeNAの4番へと成長した佐野恵太は、自身のドラフトを振り返ってこう語っている。
「9巡目という悔しい思いは、今も変わることはない。下位指名でもやればできるんだというのを見せていきたいと、ずっと思っている」
今年、下位指名で入団した選手たちもまた、そうした思いを胸に秘め、ファームでの熾烈な競争に挑むことだろう。上位選手も下位選手も、入団後は横一線。活躍のチャンスはある。

(了)/文・伊勢洋平