Center line 〜センターライン〜
元読売巨人軍・井端弘和氏が、野球にまつわる様々なテーマを、独自の目線で深く語るYouTubeチャンネル『イバTV』を配信中! コラム 〜センターライン〜 では『イバTV』の未公開部分を深堀りし、テーマに沿ってお届けします。
[連載 第33回]
井端弘和が語る「マイナスをプラスに変える、気持ちの切り替え」(前編)
Posted 2021.06.04
©YOMIURI GIANTS

主力の離脱とチームの活性化は裏表

リーグ3連覇を狙うジャイアンツが、相次ぐ主力選手の登録抹消で危機に直面している。5月7日、エース菅野智之が4イニングを投げた時点で「右肘の違和感」から緊急降板し、出場選手登録を抹消。2日後の9日にはキャプテンの坂本勇人が牽制を受けてヘッドスライディングで帰塁した際、右手親指の末節骨を骨折。復帰まで1ヶ月の診断が下った。エースとキャプテンが故障したジャイアンツにとって、さらに痛手となったのは、岡本へのチャンスメイクに奮闘していたリードオフマン、梶谷の離脱だ。新型コロナ陽性から復帰した丸も調子が上がらず、不安山積の交流戦が続いている。

こうした苦難が続くとき、チームはどのように切り替えを図っていくべきなのか。井端弘和は「一時的な離脱は、決して悪いことばかりではない」と語る。
「3ヶ月かかるとか、シーズン棒に振るという離脱であれば、相当苦しいでしょうけど、逆にずっと同じメンバーで戦っていても、新鮮さがなくなって、勢いが生まれにくい。首脳陣も主力が1ヶ月戦列を離れるようなケースは十分想定してイメージを持っているし、若手にとっては大きなチャンスですから。それがむしろ活性化につながると思うんですよ。いま出ている選手や代わりに上がってきた選手がどうカバーするかですよね」

「コロナ離脱」は順位にどう影響を与えるか?

「僕が見る限り、新型コロナウイルスの陽性者が出て、選手が離脱したチームって、案外勝っているなという印象なんですよ。ヤクルトもそうですし、日本ハムのときは、さすがにヤバいなと思ったけど、意外と踏みとどまった。開幕直後よりも少し勝ちが多いくらいじゃないか」

ヤクルトは3月末に捕手の西田明央の感染が判明し、濃厚接触者の疑いがあるとして山田哲人、青木宣親、内川聖一、西浦直亨の1軍登録が抹消される事態となった。ところがファンが失望する中、3番・塩見泰隆、4番・村上宗隆、5番・太田賢吾という緊急クリーンアップが活躍。チーム一丸となってDeNAに連勝し、苦難を乗り切った。

日本ハムに至っては、西川遥輝や中島卓也ら、選手・スタッフ計13人が陽性となり、シーズン中としては初めて球団活動の一時停止に追い込まれた。最下位にあえぐ中、5人が登録抹消となり、中田翔も不調に陥ったが、1軍に復帰した杉谷拳士や宇佐見真吾らが奮起。レギュラーを狙う平沼翔太や俊足ルーキーの五十幡亮汰も躍動し、再始動後20試合を7勝12敗1分で踏ん張っている。

いつもと違うことを任されたとき、選手はスイッチが入る

「そうしたマイナスをプラスに変えられるような活性化が、のちにチームにとって良かったということはあると思います。逆にセ・リーグでコロナ離脱がないのは阪神、中日、DeNAですが、中日やDeNAは下位ですよね。DeNAは、開幕から1ヶ月間オースティンやソトというホームランバッターを欠いていて、今永や平良の故障もなかなか補えませんでしたが、ドラゴンズはベストメンバーでもなかなか勝てていない」

もちろん離脱は起きないほうがいい。だが、気持ちの変化が生まれたほうが、マンネリ化して停滞するよりはいい場合もある。そう井端は指摘する。

「自分のドラゴンズ時代を思い返しても、スタメンが次々離脱して『あいつもいないのか、こいつもいないのか』となったとき、必ず代わりを果たしてくれる選手は出てくるものです。谷繁さんはそうしたとき、3番や5番を打って活躍してましたよね。僕も落合さんに『5番打て』って言われて、最初は『はぁ!? 5番?』って思いましたが、『よし、やってやろう』という気持ちになるものなんです」

新たなヒーローが誕生するのは、得てしてチームが苦境に陥ったときだ。主力の抜けた穴を誰が埋めるのか。それによってチームがどう切り替えを図っていくのかは、支配下登録選手70名でシーズン143試合を戦うプロ野球の大きな見どころでもある。

勝ちゲームで若い選手を経験させることの大切さ

そうした意味では、ジャイアンツの今の状況も、悲観せず前向きに捉えることができるのではないだろうか。「主力の故障をカバーできるチームは、昨年の経験が生きているチーム」と井端は言う。

「巨人も、昨年を振り返ると『意外とこの選手、こんなに試合出てたんだ』という若手がけっこういる。松原はもちろん、若林も途中から坂本に変わって打席に立ったり、そういう経験が今のような状況で生かされていると思います。まして原監督は、勝ちゲームでポンポン選手を入れ替えるので、それが大きいんですよ。負けゲームで何試合も出るより、勝ちゲームで出たほうがいいわけで。投手にしても、原さんはスクランブルでどんどん入れてきますよね」

菅野の離脱や今村の不調で駒不足に陥っている投手陣だが、一方で、髙橋優貴が台頭し、3年目の戸郷やブルペン陣も熱投を演じている。5月30日のソフトバンク戦では、戸郷がプロ初の中4日で登板し、気迫のピッチングで5回を2失点。以降のピンチを大江、高梨、ビエイラ、そしてイニングをまたいで奮闘した中川ら、6人もの救援投手を注ぎ込んでしのぎ、ついにソフトバンク戦の連敗をストップさせた。厳しい状況下で穴を埋める選手が踏ん張り、その踏ん張りに主砲の岡本と外国人選手が応えて新たなボルテージが生まれる。こうした勝利こそ、のちに「良かった」と思える1勝となるに違いない。

(つづく)/文・伊勢洋平