Center line 〜センターライン〜
元読売巨人軍・井端弘和氏が、野球にまつわる様々なテーマを、独自の目線で深く語るYouTubeチャンネル『イバTV』を配信中! コラム 〜センターライン〜 では『イバTV』の未公開部分を深堀りし、テーマに沿ってお届けします。
[連載 第52回]
負けない 〜未来への希望〜(後編)
Posted 2022.07.29

プロの矜持として、ペナントレースを戦い抜く12球団

重症者数の割合が減少し、経済活動も徐々に戻ってきた“コロナ渦”だが、6月にはセパ両リーグで感染者が増加。7月には首位のスワローズで感染が拡大し、ジャイアンツでは原辰徳監督やエース菅野智之をはじめ、23日までに選手・コーチ・スタッフ計76名が陽性判定となり、ドラゴンズとの3連戦が中止となるなど、ウイルス変異の影響は球界を引き続き悩ませている。
「集団で行動するプロ野球はどうしてもチーム内で感染が広がりやすい。中心選手が何人も陽性になるというケースは今後もあり得るので、気を付けないといけない」
そう井端は語る。

一方で、今シーズンのNPBは、感染の疑いや濃厚接触者が出て登録を抹消する場合でもスムーズに選手の入れ替えができる特例を施策。延長戦12回制やクライマックスシリーズも復活させ、可能な限りフルスペックで試合を戦い抜く施策を講じてきた。
「昨年と違って引き分けがほぼなくなり、延長で決着がつく試合が多くなりましたよね。その分、昨年みたいにピッチャーを注ぎ込めなくなりましたが、やはり決着がつくのはファンも喜ぶと思いますし、今シーズンはお客さんも入って選手もいいピリピリ感を持ってプレーできているのを感じます。あとは、特例での入れ替えが効くので、2軍の選手も含めてどうペナントレースを戦うか」

予定通り開催されたオールスター戦は、岡本や丸らが出場できなかったことが悔やまれるが、佐々木朗希や清宮幸太郎、戸郷翔征ら若手スターが躍動。ロッテの補充選手として登板した小野郁も3者3Kで脚光を浴びるなど、次代を担う選手たちが希望をつないだ。つねにウィズコロナの先導的役割を果たしてきたプロ野球界が、野球を止めるわけにはいかない。後半戦は順位争いはもちろん、各球団ともシーズンを乗り切るための総力戦が続く。

コロナ渦でも着実に成長する選手がいる

また、今シーズンのプロ野球界で目立つのは、コロナ禍の中でドラフト指名を受けたルーキーたちの活躍だ。とくに成長過程にある高校・大学の選手は実戦経験の不足が危惧されたが、市立和歌山からドラ1でロッテへ入団した松川虎生や、ジャイアンツの新守護神としてすっかり信頼を得た関西国際大学出身の大勢らが存在感を示し、前半戦を大いに盛り上げた。逆境に負けずに進化し、1年目から結果を出す。そうした彼らの活躍を井端はこう分析する。
「当然、コロナの影響で練習が制限されたり、試合が組めなかったりということはあったと思いますが、その期間にウエイトトレーニングや体の強化、足りないところを重点的にできている選手がいる。牧選手なんかもそうですが、今の選手は学生時代から見てると、目に見えて『デカくなったな』と思うことが多いですよね。全体練習ができなかったらできないで、一度ピッチングやフリーバッティングから離れる。とても良いんじゃないかって思うんです」

逆に言えば、伸び悩んでいる状態でずっとバットを振ったりボールを投げる練習を続けても打開策を見出すのは難しい。むしろ、一旦バットやボールから離れ、別の自分の足りないところを強化することで、行き詰まっていた課題が解決されたり、急に良い方向に変わったりすることはままあることだ。
「もちろん自粛期間中、何をしたらいいか分からなかったという選手や、ピッチングやバッティングの調子がおかしくなった選手もいると思いますが、逆に良くなったという選手は間違いなくいる。コロナ渦のような状況との付き合い方は、学生には難しい面もありますが、やらされて練習してたのか、自分から練習に取り組んでいたのか、そこが伸びるかどうかの分かれ目ですよね」

大勢に至っては、西脇工業時代にプロを志望しながらも指名漏れ。関西国際大学では150km/hを超える速球で注目されたが、4年生の春には右肘を疲労骨折し、野球を続けるか断念するか岐路に立たされた。トレーナーの激励もあって治療とリハビリに専念した大勢だったが、8月の新型コロナウイルス流行の影響で部活動は中断。秋のリーグ戦第1節も出場辞退となり、ようやくマウンドに復帰した天理大学戦は、ほとんどぶっつけ本番で託されたリリーフだった。だが、大勢はこの試合で自己最速の153km/を記録。以降も球速を伸ばし続けているが、それは練習できなかった間に行ったフォーム見直しやリハビリの成果といえる。東洋大姫路を破って甲子園に出場した兄と比較され、ドラフトにもかからなかった高校時代。そして故障とコロナでアピールの場を失われた大学時代。大勢が幾多の試練に打ち克ってきたのは、その悔しさから来る「負けたくない」という気持ちだったに違いない。

この夏“負けたくない”球児たちの熱戦を見たい

どんな状況にも立ち向かい、輝き放つ選手には、そうした「負けん気の原点」がある。かつて夏の甲子園で秋田県勢を20年ぶりの8強に導いた、現ロッテの成田翔は、雪の覆い尽くす秋田商業のグラウンドで負けん気に磨きをかけてきた。
「雪が不利だと思ったことはない。そのぶんしっかりトレーニングができますから」
雪の絶えない冬場は、先輩・石川雅規(現ヤクルト)の時代から続く伝統の“長靴ダッシュ”を繰り返し、下半身を強化。とくに170cmと小柄な成田は自主練習の大半をウェイトトレーニングや投球フォームの研究に充てたという(※)。

今年も新型コロナウイルスの流行や猛暑、豪雨によって、難しい調整を強いられた球児たちも少なくない。それでも8月6日に始まる104回目の夏の甲子園は、3年ぶりに一般観客にもチケットを販売し、開会式の選手入場や組み合わせ抽選会の実施も復活する予定だ。真夏の空に響き渡る打球音。そして心高鳴るブラスバンドの音色。すでに熱戦の繰り広げられている地方大会では、多くのファンがさまざまな思いを胸に球場に足を運んでいる。この夏こそ、球児たちの「負けたくない」戦いを見たい。

(了)/文・伊勢洋平

※ 『週刊ベースボール Online』2018年1月17日「ふるさと紀行〜秋田商高」より